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シニア向けiPhone講座で分かった、専門家ではない人にITを伝えるためのコツ
ITproの読者であれば、自分が関わっているIT関連製品やサービスの説明を求められることが多々あるだろう。そうしたとき、説明する相手が“偉く”なればなるほど、こちらの伝えたい内容をきちんと発信して受け入れてもらうことが難しいと感じたことはないだろうか。
例えば、普段接しているIT担当者には、こちらの言いたいこと伝えたいことを比較的スムーズに伝えられるのに、あまりITに詳しくないその上司に説明するとなると、途端にハードルが高く感じるといった具合だ。
IT書籍を担当している記者は日ごろ、IT関連情報をいかに分かりやすく、より多くの読者に届けられるかに腐心しているつもりだ。しかしながら、実際にできているかというと、なかなか心もとない。
例えば、iPhone 6の便利さと使い方を自分の母親に直接きちんと伝えられるかとなると、自信を持って「できる」とは言い切れない。読者の皆さんは自分が使いこなしているiPhone 6の使いこなし方を、身の周りの方々に十分、分かりやすく伝えることができるだろうか。
こうした問題意識に一つの答を示すようなイベントを目の当たりにしたので、読者にお伝えしたい。シニアや初心者のためのパソコンスクール「パソコムプラザ新浦安」の講師で、『いちばんやさしい60代からのiPhone』の著者でもある増田由紀氏による「iPhone使いこなし入門講座」が、2015年3月6日に有隣堂アトレ新浦安店主催で開催された。無料ということもあり、およそ1時間の講座は2回ともほぼ満席であった(写真1)。
いずれの回も、参加者の9割以上は60歳以上と思われるシニアの女性であった。講座の内容はiPhoneの機能、主に電話とカメラの基本的な使い方とアプリの活用方法である。
その講座での増田さんの「語り口」から、専門家ではない方々にITを伝えるための気付きを得ることができた。それは、(1)「製品やサービスに関する豊富な知識」、(2)「相手の立場に立った伝達方法」、(3)「相手がIT情報を活用すべきという“熱い思い”」である。
多様なバージョンのiPhoneの機能や操作方法を完璧に把握
(1)の製品やサービスに関する豊富な知識という点については、講座で、増田さんの圧倒的な知識を目の当たりにした。講座では、受講者が各々持ち込んだ自前のiPhoneを使用していた。そのため、さまざまなバージョンのiPhoneを対象にして、それらの使い方を伝える必要があった。
にも関わらず、バージョンごとの差異、具体的には機能の有無や操作方法の違いを適切に把握しながら、増田さんは参加者一人ひとりにしっかりと対処していた。それができるのは、iPhoneに関する豊富な知識の裏付けがあるからにほかならない。
ホームやタップなどの専門用語は使わない
次は、(2)の相手の立場に立った伝達方法だ。増田さんの伝え方でとても印象に残ったのは、ゆっくり、なおかつ、はっきりとした語り口である。iPhone6の機能や操作方法をとても丁寧な話し方で、自分が発した言葉と相手が受け止めているのを確認しながら、説明するというものだ(写真2)。
ちなみに増田さんの語り口は、このページにある動画から見ることができる。
また、IT用語に多いカタカナの専門用語をほとんど使わないのも特徴である。例えば、iPhoneの「ホーム」ボタンは「下にある丸いボタン」「タップ」は指先のやわらかい部分で軽く1回触れる、といったように、ほとんどすべての説明において、専門用語を口にすることはなかった。
増田さんによれば、「シニア世代の方が最初につまずきやすく、ITの習得を諦めてしまう最大の原因が、難しそうな用語にある」という。「ITに関わる用語や概念はどうしてもカタカナや略語が多い。そのため、身近なものに例えたり、よく知っているものに置き換えたりして、理解しやすいようにしている」そうだ。
さらに、「操作に関する活用事例を伝えるときは、生活に密着した具体的な活用シーンをできるだけイメージしやすいようにしている」という。例えば、音声によるルート検索やアラームの設定、写真の撮影や共有方法を伝えるときでも、それらの機能を個別に教えるのではなく、家族や友だちと旅行しているシーンを想定し、その中での活用方法を具体的に説明するようにしている。活用シーンに密着した伝え方をすることで、より忘れにくくなるのだという。
シニアこそITを活用すべきと痛感した4年前の震災
豊富な知識に基づき、相手の立場に立って分かりやすく伝える――。
これらは相手に物事を伝えるために当然のことであり、多くの人にとって理解しやすい。そのうえで一番大事なことは、相手がしっかり理解できるまで、この姿勢を貫けるか否かということだ。
そして、この姿勢を貫けるかどうかは、相手にとってのITの必要性を、どれだけ伝える側が切実に感じているかによるのではないか。つまり、(3)の相手がIT情報を活用すべきという“熱い思い”があるかどうかであろう。
増田さんの場合は4年前の東日本大震災のとき、孤立しがちなシニアこそITの便利さを享受すべきと痛感したことが根底にある(関連記事)。だからこそ、常に最新の情報を収集し、相手の立場に立ってさまざまな意見を聞きながら、伝達手法に磨きをかけ続けられるのであろう。
伝えたい相手にとって「このITが本当に必要だ」という思いがあるか――。これこそが、分かってもらえるか否かの分かれ目だと感じた次第である。
(文/齋藤 厚志=出版局)